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宇佐美控訴の趣意書(2)−認定事実の中の事実誤認/火の粉を払え ルポライター米本和広blog

ストーカー事件の真相(17) 

地裁判決は「証拠の恣意的な選択」の結果である!

 「判決文(上)」 「判決文(下)」

 東京高裁判事は、趣意書で書かれた内容をさしたる事実誤認ではないと判断し、1回の審理で結審してしまった。地裁判決文にさしたる事実誤認はなかったのか・・・。 

*1 控訴趣意書は原文のママだが、適宜、改行、行空けを行い、一部の文字をゴチックにした。 
*2 目次にある頁数を趣意書に生かした。 
*3 告訴人の名前だけはイニシャル(K)とした。 
*4 四角で囲ったところは、管理人の注釈。一部、敬称を略した。 
*5 下線は、管理人が注目した記述。

 

目 次 

第1 はじめに……1頁 
1 本件控訴の概要・・・・・・1頁 
2 被告人の主観に関連する背景事情の用語説明……1頁 

第2 訴訟手続の法令違反……2頁 
1 証拠調べ手続きに関する不服(弁護人請求証拠の不採用)……2頁 
2 訴訟指揮に関する不服(弁護人に対する尋問制限)……3頁
3 審理不尽……4頁 

(上記は「訴訟手続きの法令違反」に掲載) 

第3 原判決の認定事実の中の事実誤認……5頁 
1 原判決「犯行に至る経緯等」の?乃至?の記載中の事実誤認……5頁 
(1) 認定事実?について……6頁 
(2) 認定事実?について……6頁 
(3) 認定事実?について……7頁 
(4) 認定事実?について……7頁 
(5) 認定事実?について……8頁 
(6) 認定事実?について……9頁 
(7) 認定事実?について……9頁 
(8) 判決への影響……10頁 


2 原判決の判示1乃至5の各行為についての犯行状況の記載中の事実誤認……10頁 
(1) 判示1の行為の犯行状況……11頁 
(2) 判示2の行為の犯行状況……12頁 
(3) 判示3の行為の犯行状況……13頁 
(4) 判示4の行為の犯行状況……14頁 
(5) 判示5の行為の犯行状況……14頁 
(6) 判決への影響……15頁 

第4 原審証拠上認定すべき事実を認定しなかったことの事実誤認……15頁 
1 「被告人にはKの本心が分からなかった」と認定すべきこと……15頁 
(1) 被告人の認識(総論)……15頁 
(2) 認定事実??関連……16頁 
(3) 認定事実?関連……17頁 
(4) 認定事実?関連……18頁 
(5) 認定事実??関連……18頁 
(6) 認定事実?関連……20頁 
(7) 認定事実?関連……21頁 
(8) 認定事実?関連……21頁 

2 判示各行為は恋愛感情充足目的の「待ち伏せ」にあたらないこと……22頁 
(1) 総論……22頁 
(2) 判示1の行為時の認識……23頁 
(3) 判示2の行為時の認識……25頁 
(4) 判示3の行為時の認識……26頁 
(5) 判示4の行為時の認識……28頁 
(6) 判示5前段の行為時の認識……31頁 
(7) 判示5後段の行為時の認識……33頁 
(8) 認識の認定に関する原判決の誤り……35頁 
(9) 方法について……36頁 

第5 法令適用の誤り……36頁 
1 恋愛感情充足目的の解釈……36頁 
2 「待ち伏せ」の解釈……37頁 
3 「不安を覚えさせる方法」の認識……38頁 
4 ストーカー規制法を適用すべき事案ではないこと……39頁 

第6 量刑不当……40頁 
1 動機の点……40頁 
2 手段方法と結果の点……41頁 

今回アップしたのはゴチックの部分。

  
第3 原判決の認定事実の中の事実誤認 

 1 原判決の「犯行に至る経緯等」に記載の?乃至?中の事実誤認 

 原判決は, 
「事実認定の補足説明」の1(1)において,「犯行に至る経緯等」として?乃至?の事実を認定したうえで,「上記認定事実によれば,判示各行為の当時,被告人は,Kには被告人に対する恋愛感情がなく,被告人と結婚する意思も全くなかったことを知りながらも,終始,Kに対して強い恋愛感情を有し,Kと会い,どうにかしてKとの関係を修復しようと考えていた。」 
 と認定した(原判決15頁)。 
  
 しかし,原判決の前提として認定された犯行に至る経緯等に関する事実のうち,?ないし?,?,?及び?の認定事実は,以下のとおり,その認定自体に明らかに判決に影響を及ぼす重大な誤りがあり,または上記下線部分にかかる事実の認定根拠たり得ない事実であるため,判決に直接影響を及ぼす上記下線部分の事実を認定することは事実誤認に当たるというべきである。 

以下,詳述する。<5頁> 

 (1) 上記?の認定事実について 

 原判決は,「被告人が,平成20年中に,Kの父親あてに,Kとの結婚を認めてほしいとの趣旨の手紙(甲43添付のもの)を書いた」と認定した。 

 しかし,同手紙は,その内容を見れば明らかなとおり,結婚を認めてほしいという趣旨の言葉はどこにも存在しない。 
 そこに書かれているのは,被告人のKに対する純粋な愛情や,Kの父親が抱いている様々な心配や不安を払拭したいという気持ちであり,被告人も,公判廷において,前記手紙の趣旨を聞かれ,統一教会の風評等による心配や誤解を解こうと思って書いた旨供述している(第6回被告人調書p15〜16)。 

 また,同手紙は,Kが何の連絡もなく行方不明になって以降,未だ統一教会本部宛の脱会通知書すら来ていない時期に書かれたものであり,被告人は,同手紙を書いた当時,「Kには被告人に対する恋愛感情がなく,被告人と結婚する意思も全くなかったこと」など全く知る由もなかった。 
  
 むしろ,結婚直前に突然行方不明になり音信が途絶えたKに対し,愛情を持ち続けているのが当然と言える時期に書かれたものであり,しかも,実際に送付もしなかった手紙である。言うまでもなく,純粋な愛情を持っていること自体は,全く違法ではない以上,かかる手紙を書いた事実を根拠として,原判決の上記下線部分の事実を推認することは,明らかに事実誤認である。

 手紙は家宅捜索のときに警視庁公安が押収したもの。手紙は投函されなかったのだから、「手紙」と表現するのはいかがと思う。「手紙の下書き」のほうがふさわしいのでは? 
 ともあれ、福士裁判官は時間軸を無視した意図的な事実認定を行っていることがよくわかる。重要なのは時系列であり、どんなときにどんな状況下で、Kの父親に手紙を出そうとしたのかが認定のポイントになるべきであろう。 
 そもそも、書いていないことをあたかも書いたように認定してしまうのは、フレームアップ(事件の捏造)以外の何物でもない。

 (2) 上記?の認定事実について 

 原判決は,Kが,中務に荷物の送付を依頼する電話をかけた際,「統一教会からの脱退と被告人との婚約破棄が自己の本心であることを告げた。」と認定した。 

 確かに,Kは,原審公判廷において,上記認定と同旨の供述をした(第2回K調書p12)。 

 しかし,この点につき,中務本人は,原審公判廷において,Kから,統一教会の脱退と婚約破棄の内容証明が本心である旨聞いた事実はないと明確に供述している(中務調書p6)。 

 中務がKから内容証明が本心である旨を聞いていないのであれば,中務が被告人に対し,Kと電話で話した内容として,内容証明がKの本心である旨言うことはありえない。 

 この点について,相反するKと中務の両供述を比較してみるに,まず,Kは,主尋問において,「本心であると告げた」という結論だけを供述し,そもそも,電話をかけたのがK本人ではなく叔父であることや,中務との具体的な話のやりとりについて何も供述せず,反対尋問において,ようやく叔父が電話をかけたことを認めた。 

 一方,中務は,電話をかけてきた男性に対し,K本人を出してほしいと中務が懇願し,ようやくKが電話に出てきた上,Kとの話の途中で,叔父が「事務的な話だけにしてくれ」と再び電話に割り込むように出てきた経緯や,Kとの電話のやりとりを具体的に<6頁> 
供述している(同調書p5〜8)。 

 このように,中務供述の方がK供述より具体的であるだけでなく,中務供述によれば,あくまで叔父が荷物の送付という事務的な話をするためだけに電話をかけてきたにすぎず,Kはもともと電話に出る予定がなかったことが伺われるところ,中務の懇請によって電話口に出てきたのであって,そのような状況において,Kが「内容証明は本心である」旨を中務に告げたというのは,余りに唐突であって不自然である。 

 また,中務供述によれば,荷物の送付依頼の電話があったことを中務が被告人に話したというだけに過ぎず,それによって,被告人が,Kの結婚意思の不存在を知ったことにはならない。 

 ところが,原判決は,このようにK供述に相反する中務供述の信用性について何ら検討することなく,一方的かつ恣意的に,K供述のみを根拠に前記の事実認定をしたのである。 

 よって,「被告人は,中務から,Kと電話で話したことを聞いた。」という事実を根拠に,原判決の上記二重線部分にかかる事実を認定したことは,重大な事実誤認に当たる。 
 

 余談になるが、私は裁判員制度が導入されようとしたときに反対した。反対の署名活動にも協力した。その理由は簡単で、電車の中で平気で化粧しているような社会常識のない女性に裁かれてはたまったものではない、と思ったからだ。 
 しかし、これまでの各種の事件での裁判員の事実認定は、プロの裁判官よりまともであり、高偏差値裁判官にありがちな被疑者の属性への偏見もない。もし、宇佐美氏の事件を裁判員が事実認定していたら、弁護人が趣意書で指摘しているような事柄には正しい判断を行ったであろう。 
 近代刑法の原理原則は「疑わしきは被告人の利益に」である。プロの裁判官はこの原則をないがしろにしているが、素人の裁判員は忠実に守ろうとしている。宇佐美さんの事件を裁判員が担当したら、無罪判決になっていただろう。  

 疑わしきは被告人の利益に :刑事裁判においては検察側が挙証責任を負うが、被告人が不利な内容について被告人側が合理的な疑いを提示できた場合には被告人に対して有利に(=検察側にとっては不利に)事実認定をする。 

 裁判員のことを持ち出さなくても、宇佐美氏の起訴が福士裁判官の刑事第一部ではなく、別の部が担当することになっていたら、ここまでひどい判決文は書かれなかったであろう。


(3) 上記?の認定事実について 
  
 
原判決は,被告人がK宛に「『どうしていますか。元気ですか。いつか会えますように』などと記載したメールを送信した」という事実を認定している。 

 確かに,被告人が前記メールを送信したことは事実である(弁2・原審記録1246丁)。 

 しかし,前記(2)で述べたとおり,被告人は,中務からKの内容証明が本心であると告げられてはおらず,Kに被告人との結婚意思がないことを知らなかったのであり,後述のとおり,むしろ,中務の話を聞いてKが偽装脱会している可能性が高いと思い(中務調書p8,第6回被告人調書p23),Kの身を心配して,Kの安否・消息を尋ねる趣旨で前記メールを送ったのである。 

 よって,この事実を認定根拠の一つとして,原判決の上記下線部分の事実を認定したことは事実誤認に当たる。 

 なお,原判決は,「被告人がKの叔母に結婚させて欲しいと言ったが断られた。」との認定をした。 
 この認定は,K供述に基づくのであろうが(第2回K調書p13),Kの叔母にKと結婚させて欲しいと言ったところで,一般論として効果的とは思われず,大した意味はないと言え,被告人が本当にかかる発言をしたのか疑問である。このように,客観的に見て不自然で,かつ,被告人がKとの関係を修復したがっていたという認定には利用し易いといえる当該K供述の信用性は,非常に低いというべきである。

 趣意書では「K供述に基づくのであろうが」といった書き方がなされている。 
 それは、福士裁判官が判決文で、個々の事実認定をどの証拠に基づいて行ったのかを個別に明記(典拠)していないことによるものである。つまり、根拠とした証拠を「証拠の標目」として一括して羅列している。違法ではないようだが、真実を探求する上では適切な書き方ではない。 
 このため、弁護人は羅列された証拠のすべてを読みながら、「この事実認定はこの証拠に基づいたものだろう」として、「K供述に基づくのであろう」といった書き方をせざるを得なかったと思われる。



 (4) 上記?の認定事実について 
  
 原判決は,被告人が,平成21年11月に,当時Kが住んでいると突き止め<7頁> 
たマンションを訪れ,宮村とトラブルになった際に,宮村に対し「(Kと)結婚したい」と話した旨認定している。

 このマンションは荻窪駅から徒歩10分前後の環状八号線沿いにある荻窪西央マンション。宮村グループのアジトであった。現在の監視カメラ付きのアジトは都内某所。 

 上記認定の根拠は,「被告人が宮村に対し『私に会わせてほしいとか,話をさせてくれとか,結婚したいんだとか,』と言ったことを,宮村から聞いた」という原審公判廷におけるK供述であろう(第2回公判K調書p15)。 

 しかし,上記トラブルの際,被告人の言葉を聞いた当の宮村本人は,原審公判廷において,被告人が「Kさんに会いたいというような話をされました」と供述し,被告人が「Kと結婚したい」旨言ったとは供述していない(宮村調書p4)。 
 宮村とトラブルになり,警察まで来た状況については争いがないところ,そのような当時の緊迫した状況において,Kの本心を確認するためにその現場マンションに行った被告人にとって意味のあることは,宮村に対し,ただ「Kに会いたい」と伝えることだけであって,「Kと結婚したい」と述べる必要性や理由は全くない。 

 このように,前記K供述は,当時の状況に鑑み不自然であり,その信用性に重大な疑義があるというべきである。 
 現に,被告人自身,宮村に対し,「Kさんを捜しているので会って話がしたい。Kさんと連絡を取ってもらいたい」とお願いをした旨供述している(乙5・原審記録1335丁)。 
  
 したがって,真実は,前記宮村供述のとおり,被告人は,宮村に対し,「Kさんと結婚したい。」と述べた事実は存在しないと考えるのが自然かつ合理的である。 

 にもかかわらず,原判決は,被告人の言葉を直接聞いた宮村供述ではなく,宮村から聞いた,いわゆる「又聞き」のK供述を根拠に前記事実を認定し,しかも,当該K供述と一致しない前記宮村供述を採用しない理由を一切述べていない。 
 よって,被告人が宮村に対して「結婚したい」と述べたとする原判決の事実認定は,明らかに事実誤認であり,これを根拠の一つとして,「どうにかしてKとの関係を修復しようと考えていた」と認定することは事実誤認に当たる。 
 

 この一連の文脈はわかりにくいかもしれない。図解すれば、こういうことだ。 

 宮村は証人尋問で、宇佐美から「Kさんに会いたいというような話をされました」と述べている。 
 宇佐美は証人尋問で、宮村に「『Kさんを捜しているので会って話がしたい。Kさんと連絡を取ってもらいたい』とお願いをした」と述べている。 
 はやはり証人尋問で、「被告人が宮村に対し『私に会わせてほしいとか,話をさせてくれとか,結婚したいんだとか』と言ったことを,宮村から聞いた」と述べている。 
 宮村と宇佐美の供述は一致し、宮村・宇佐美とKの供述は一致していない。 
 それにもかかわらず、福士裁判官は「又聞きしたKの供述」を採用し、宮村(・宇佐美)の供述を排した理由を述べていない。裁判官にあってはならない「証拠の恣意的な選択」である。


 (5) 上記?の認定事実について 
  
 原判決は,興信所によるKの居場所の調査を依頼した澤田一誠(以下「澤田」という)が,その調査結果に基づき,中務に現地確認を依頼したものの,中務がKと会えなかった平成22年2月頃のことにつき,中務は,「これ以上何をすればいいのかと感じ,澤田には『難しい』と伝え,被告人に対しては『あきらめるしかない。気持ちの整理を付けるしかない』と伝えた」旨認定する。 

 確かに,中務の員面調書(甲34・原審記録193丁)に,一見,上記認定と同旨の記載がある。 
 しかし,中務は,原審公判廷において,同調書記載の「諦めるしかない」と<8頁> 
いう言葉の意味について,脱会したから諦めるしかない,という意味ではなく,Kの本心は分からないが,Kの居場所を見つけて意思確認をするということ自体が難しい,今はもう少し待つしかないという意味で被告人に伝え,実際の言葉としては,文字通りの「諦めるしかない」という言葉ではなく,もう少し柔らかいニュアンスの言葉で伝えた旨供述した(中務調書p9〜10,20〜21)。 

 また,前記員面調書(甲34)においても,澤田に対して「難しい」と伝えた時の気持ちについて,「これ以上何をすればいいのかといった感じだった。後は待つしかない。といった気持ちで難しいと伝えた」旨記載されており,中務が「待つしかない」という気持ちであったことは明らかであるところ,原判決の認定では,この点が無視されたのである。 

 そもそも,中務は,K本人には会えなかったのだから,Kが本心から脱会したことを知って,脱会したから諦めるしかない,と言ったわけではない。ところが,原審は,上記中務の公判供述には全く触れることなく,一方的に調書の一部の記載だけを用いて,上記のような誤った事実を認定し,さらに,当該事実を根拠の一つとして,原判決の上記二重線部分の事実を認定したのであるから,明らかに事実誤認である。

この記述は、前の記事で、 
10回にわたる公判では、宇佐美さんに不利な証拠(あまりないが)も検察に不利な証拠(これはけっこう多い)も提出されている。しかるに、福士判決文は宇佐美さんに不利な証拠をつまみ食い的に生かし、検察に不利な証拠は一切無視しているのである 
と書いた所以である。

 (6) 上記?の認定事実について 

 原判決は,被告人が,平成22年2月,K宛に「■■こさん,早く会いたい」という表題で「一緒になれるように何でも全力を尽くして頑張っていきたい。どうかお返事下さい」などと記載したメールを送信した事実を認定する。 
  
 確かに,被告人が上記のメールを送信したことは事実である(弁2・原審記録1247丁)。 

 しかし,同メール送信当時の被告人の認識は,前記(5)で述べたとおり,中務から,Kには結婚意思がないから諦めろ,と言われたのでなく,興信所による調査で居場所が突き止められたにもかかわらず,K本人の様子は確認できず,今は待つしかないと言われただけであり,Kの結婚意思がないことを知らなかったのであり,むしろ,被告人は,Kは偽装脱会をしていると思い(中務調書p9,10,第6回公判被告人調書p39.40),Kの身を心配する余り,前記メールを送ったのである。 
 よって,前記メールの送信事実を認定根拠の一つとして,原判決の上記下線部分の事実を認定することは事実誤認である。 

 (7) 上記?の認定事実について 
  
 原判決は,判示5の行為直後に,被告人がKに対する自分の気持ちを書いたノート(甲51)の記載の一部を引用して(原審記録401ないし404丁,409・410丁,425ないし428丁),被告人がそれを記載した事実をもって,各行為時に被告人にKとの関係をどうにかして修復しようとする恋愛感情充足目的があったと認定する根拠の一つとした。<9頁> 

 この点,被告人がKに対する愛情(それが恋愛感情か否かは別として)を持っていたことは被告人も認めるところであり,むしろ,Kのことを妻同然に大切に思う気持ちがあったからこそ,Kが行方不明になってから約3年にわたり,ひたすらKの居場所を探し続けたのである。

  統一教会云々は別にして、性の契りを交わし、結婚を約束した女性が突然、いなくなる。そのあと、婚約破棄の通知文が一方的に送られてくる。 
 それで、<ああ、彼女は心変わりしたんだな(グッスン)>と思って諦めるようなナイーブ(幼稚)な男性がこの世にいるのだろうか。 必死で居場所を探すのは当然のことではないか。よりを戻したいといったレベルではないのだ。 
 しかし、福士裁判官は一片の通知文が来れば、「結婚の意思は不存在である」として、諦めるのが人間として正しい道と考えているようだ。 
 社会常識では考えられないような人間関係観。司法試験の勉強のしすぎで、感受性が狂ってしまったのかと毒づきたい。
 
 もし、福士氏の考える「人間としての正しい道」がまかり通るなら、男性天国の社会となる。性をむさぼった後、女性に婚約破棄の通知文を送れば、男女関係は清算でき、女性が執拗につきまとい、婚約履行を迫ってくれば、女性にストーカーされているとして、警察に被害届(場合によっては告訴)を出せばいいのだから。

 そもそも,被告人は,後記第4.1において後述するとおり,Kの本心が分からなかったため,その本心を確認すべく捜し続けたのである。そしてもし,Kが被告人との結婚意思をなお持ち続けていることが確認できたならば,Kと結婚したいと思っていたが,その反面,Kに被告人との結婚意思がないことが確認できれば,たとえ被告人自身がKに対する愛情を持っていたとしても,諦めるつもりであったのである。 

 このような被告人の主観は,当該記載を全体的に素直に読めば,如実に表れている。すなわち,当該ノートの記載は,判示5の時,ようやくKには被告人との結婚意思が全くないことが分かった被告人が,自分の気持ちを整理してKと決別しようとする心情を記載したものであり,Kの本心が全く分からなかった判示5以前の心情とは全く別個のものであり,「どうにかしてKとの関係を修復しようと考えていた」などという事実は,全く伺われない。 

 実際,被告人は,判示5のときにKの本心を知り,Kとの結婚をあきらめたため,それ以降,一度もKの立ち回り先や居場所には現れておらず(第5回■■■■子調書p14,以下■■母調書という。第6回公判被告人調書p69),奇しくも逮捕前日の平成23年2月6日には,別の女性との結婚を考えて次の合同結婚式に参加することも表明していたのである(第6回公判被告人調書p69,山川調書p3,4)。

 確かパパイヤさんの以前の投稿だったと思うが、ストーカー行為は相手が自分に好意を持っていないことを知ってから、あるいは相手が心変わりしたことがわかってから始まるもの−という指摘がなされたことがあった。 
 まさにそうである。判例が紹介されているストーカー規制法の解説書にはいずれもそのような事例が掲載されている。 
 ところが、宇佐美氏はKの本心(心変わり)を知って以降、通常のストーカー犯と違って、Kに近づくことは一切していない。ストーカー行為の経験則から外れているのだ。 
 そうであればこそなおのこと、福士裁判官は<なぜ宇佐美は判示5以後、Kに近づくことをやめたのか>について言及しなければならなかった。それができなかった理由は簡単である。説明することができなかったからだ。 
 なぜ、通常のストーカー犯にはない行動を取ったのか・・・ここで、福士裁判官は思考を停止した。

 よって,原判決が,当該ノートの記載を根拠の一つとして,上記下線部分の事実を認定したことは,事実誤認である。 

(8) 判決への影響 

 以上の事実誤認がなければ,被告人に恋愛感情充足目的があったとの認定には至らないため,上記事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。 

 すなわち,前述のとおり,上記1の(2)及び(5)に基づけば,「被告人は,Kに被告人に対する恋愛感情も結婚意思も全くなくなったことを知りながらも」という上記二重線部分の認定には至らず,さらに,上記1の(1),(3),(4),(6),(7)に基づけば,「被告人がどうにかしてKとの関係を修復しようと考えていた」という認定にも至らず,よって,上記下線部分の認定はできない。 
  
 とすれば,論理的に「判示各行為は,・・・Kとの関係を修復したいという被告人のKに対する恋愛感情を充足する目的で行われたもの」との認定も事実誤認になることが明らかであるから,原判決は破棄されるべきである。<10頁>  

 
 高裁判事は、この趣意書にどう応えるのか!? 
 
−続く−

 
火の粉を払え ルポライター米本和広blog
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