広島夫婦拉致監禁事件・民事訴訟の訴状を公開(後半)
先回の記事「広島夫婦拉致監禁事件・民事訴訟の訴状を公開(前半) 」に引き続き、後半部分を公開します。
(3) 原告夫に対する犯行に至る経緯及び状況
ア.被告夫の母は,原告夫を騙して監禁するため,平成26年7月16日ころ,同原告に対し,広島市に住んでいる叔父が広島市内の病院に入院していて危ない状態にあり,7月26日に親族で見舞いに行くので一緒に来て欲しい旨嘘を言い,同月26日午後3時ころ,被告夫の父らがワゴン車で同原告方まで迎えに来た。ワゴン車に乗車していたのは,被告夫の父,同夫の母,実兄の訴外原告夫の兄,叔父夫婦の訴外夫の叔父A,訴外夫の叔母,叔父の夫の叔父B某と従兄弟の夫の従兄弟だった。これから監禁されることを知らない原告夫は,言われるままにワゴン車に乗り,3列目の座席の中央に乗せられた。同原告の右側には被告夫の父が,左側には訴外原告夫の兄が座って両脇を固めた。訴外夫の叔母と同夫の叔父Bの2人はワゴン車から降り,代わりに運転席,助手席に見知らぬ男2人が乗り込んだ。助手席に乗ったのは被告元信姉の夫であった。運転手は30代か40代くらいのがたいのいい男で,被告元信姉の夫の知り合いであった。
イ.車が出た後,原告夫は訴外原告夫の兄に携帯電話を見せて欲しいと言われてそのまま取り上げられた。同原告は,統一教会信者が拉致監禁され脱会強要を受けるという事件があることを聞いていたことから,「もしかしたら,自分も拉致監禁されるのか」と感じ,「トイレに行かせて欲しい」と言うと,簡易トイレを差し出された。ここで同原告は,拉致監禁に間違いない旨確信し,もがいて暴れたり,後ろの車に手を振って助けを求めるなどしたが,被告夫の父及び訴外原告夫の兄から腕をつかまれて制止された。両被告は,「こういうことはしたくないけど,これ以上暴れるなら手も足も縛らないといけない」と言った。車は高速道路に乗り,走行中,今度は訴外原告夫の兄から財布を取り上げられた。同原告が「妻はどうなっているのか」と聞くと,同じ場所に向かっているとのことであった。 加古川インターを過ぎてから暫く走った頃,被告元信姉の夫が同元信者の姉と携帯電話でやりとりし,同被告の指示を受けて,被告夫の父及び訴外原告夫の兄に向かって「目隠しを」と言い,両被告が原告夫の頭に黒い布袋を被せた。更に両被告らは同原告の両手を布製のもので縛った。
ウ.ワゴン車は上記★★ハイツ前に停車し,原告夫は被告らから車から降りるように言われ,誘導されるままに車を降り,目隠しをされ両腕を縛られたまま,誘導されるままに501号室へ連行された。同原告は,原告妻も同様に拉致されて同じ場所に来るなら同原告を助け出さなければいけない思い,ここで大声を出して助けを呼ぶべきか否かと躊躇している内に部屋に入れられた。この時,26日午後8時ころであった。
501号室の玄関を入った後,目隠しの布袋を外され,手を縛っていた布製のものも解かれた。その場には,被告元信者の姉が同元信姉の夫と共に現れた。
翌27日,午前1時頃,上記の通り原告妻も同屋に連行されてきた。
(4) 501号室における監禁状況等
501号室は,2DKの間取りで,ダイニングキッチン以外に和室が2部屋あり,玄関ドアは防犯チェーンが施錠された上に特殊のチェーンがぐるぐる巻きにされ,南京錠及び番号式の鍵等によって二重三重に厳重に施錠され,南京錠及び番号式の鍵を外さない限り玄関を開けることができないようにされていた。玄関と台所の間はアコーディオンカーテンで塞がれ,アコーディオンカーテンの手前(部屋側)には炬燵机が立て掛けられていた。台所,浴室及びトイレには窓はなく,ベランダに面した2つの和室にある引き戸のサッシ窓はいずれもクレセント錠部分に針金が巻き付けられて,内側から解錠することができないようにされていた。これらの窓は曇りガラスが使われ,外の景色は一切見えないようになっていた。
同室には,監視役の親族の被告らのほか,被告元信者の姉が常駐し,訴外亡高澤の指示を受けつつ親族の被告らに対する指導に当たった。親族の被告らは,対応等分からないことがあると同元信者の姉に相談し,また同被告自身にも分からないことがあると,同被告は「それは先生に聞かなければ」と言って,携帯電話等で訴外亡高澤の指示を仰いでおり,室内で異常があれば被告元信者の姉が直ぐに訴外亡高澤に連絡するという体制になっていた。被告元信者の姉は,玄関ドアの防犯チェーン等を施錠するための南京錠の鍵を常時首から下げており,他の被告らが部屋から出入りをするときは同被告が鍵を開ける体制になっていた。
被告妻の父らは,「ここで私らと一緒に暫く勉強してもらう。夏休み一杯位は優にかかるだろう。病気になってもここからは出られないし医者にも行けない」と言い,原告妻が「そんなことをしたら無断欠勤で主人は会社を首になってしまう!せめて明日には主人を広島に帰して下さい!7月に昇進したばかりなんです!お母さんも知っているでしょう!」と訴えたが,被告らからは「また次の職場を探せばいい」と突っ撥ねられた。また原告妻が,「返して貰えないなら子供達を『留守家庭』【学童保育所のこと】や保育園にいつも通り行かせて下さい!」と頼んだが,「それは出来ない。子供達も明日か明後日には来る。今は実家にいる」と言われ聞き入れられず,同原告が,原告夫を広島に帰すよう,また子供達の普段の生活を守るよう繰り返し訴えたが,一切聞き入れられなかった。
501号室では,原告らが玄関に近づくと監視役の被告らが玄関前に立ちはだかり,男性一人が玄関ドアとアコーディオンカーテンの間に布団を敷き,毎晩交代で原告らの脱出を防いだ。
原告らは,監禁に対する抗議のためハンガーストライキを始めた。
(5) 訴外亡高澤らによる棄教強要
同月27日午後4時ころ,訴外亡高澤及び被告尾島が501号室を来訪した。訴外亡高澤は,原告らに対し,「今まで統一教会信者を数百人脱会説得して,(監禁から)脱出できたのは30人くらいだ」,「前の夜,警察が来たけれども,『親子の話し合いだ』と言ったら帰った」などと前置きした上,高圧的態度で統一教会批判を延々と続けた。
原告妻が,「これは拉致監禁で犯罪です!こんな事をしていいと思っているのですか?!」と訴外亡高澤に訴えると,同人は「これは話合いです。あなた達が今まで両親がいくら(統一教会を辞めるよう)言っても聞かなかったから,こうするしかなかったんだ」と言って正当化した。なおも「これは拉致監禁だ!」と同原告が抗議すると,その場にいた他の被告らも,「これは監禁じゃなくて話し合いだ。親族だから(拉致監禁しても)罪にはならない」と皆判で押したように言ってきた。訴外亡高澤は,「今まで脱出して私を裁判で訴えてきた富澤さんや寺田さんがいるけど,私は裁判で負けても損害賠償として30万円払ったらそれで終わりよ。裁判を仕掛けてくるなら堂々と受けて立つ!裁判が怖くてこんな事できるか!裁判も大歓迎だ!」と大きな声で豪語した。
午後7時か8時頃,訴外亡高澤は,被告妻の父及び同夫の父と共に警察に事情説明に行き,その間,同尾島が原告らに対して脱会強要を迫り,同高澤が1時間余り後に帰ってくるや,同被告は「この辺りは警察が多いので管轄の警察を間違えて2つ行った。親子の話し合いだと分かってくれた」などと自慢した。
(6) 救出要請メールの送信経緯
原告妻は,同月28日午後1時40分過ぎ頃,訴外妻の親族Aが携帯電話を畳の上に置いているのを認め,同被告が本を読んでいたことから,同被告の携帯電話を密かに取ってトイレに入り,知人のEN(統一教会信者)の携帯番号宛てに救出要請のメールを送った。
その内,訴外妻の親族Aが「携帯がない」と騒ぎ始めたことが分かったことから,原告妻は上記救出メールを消去してからトイレを出て,部屋の隅に置いてあった布団の下に携帯電話を隠した。同原告は,被告元信者の姉からボディチェックを受けたが,そのうち,親族の被告の一人が布団の下から携帯電話を見つけ出し,同元信者の姉に渡した。同被告は,消去したメールを復元し,原告妻が救出要請メールを信者に送ったことを他の被告らに伝え,「携帯はロックをするようにと言いましたよね!」と言って,他の被告らが指示を守らなかったことを叱責した。
被告元信者の姉は訴外亡高澤に上記事態を報告したことから,同日,本来は午後3時に来ることになっていた同被告が午後2時前に501号室に来た。訴外亡高澤は,「引っ越しをしないといけないかと思ったけど,『501』と『加古川』としかなくてマンション名がないので,これくらいなら大丈夫,大丈夫。また150万円さらにかかるところでしたよ。いつまでこの状況を続けられるか分からなくなってきたからペースを速めていきます」と言った。同日の訴外亡高澤による脱会強要の説得は夜まで続き,途中から被告尾島も加わって午後10時ころまで続いた。
(7) 7月29日,30日の脱会強要等の状況
7月29日午後4時頃,訴外亡高澤が501号室を訪れたが,訴外亡高澤は高圧的で脅迫まがいの話し方をして脱会強要を行う一方,原告らが話を真面目に聞かなければ「人としてなっていない」などと一方的な人格攻撃を行ってくることから,原告妻は二度と訴外亡高澤に会いたくないと思い,トイレに入って鍵をかけ立て籠ったが,ドライバーか何かを使って,ドアの外から鍵を開けられ,トイレから出るよう強要された。
午後6時頃,再び訴外亡高澤が501号室を来訪し,警察騒動が起きたとき近所から大家に苦情が入り,「何故大家の自分に言ってくれなかったのか?」と大家からクレームが入ったため,訴外亡高澤が被告妻の父及び同夫の父を連れて平謝りをした旨説明した。訴外亡高澤は,原告妻がトイレに立て籠もったことに腹を立て,「ガキみたいな事しやがって!幼稚な事をしやがって!」と散々罵倒し,後から被告尾島も加わって,原告らに対し午後10時ころまで脱会強要の説得を続けた。
翌30日午後3時頃,訴外亡高澤は501号室を来訪し,午後10時くらいまで脱会強要の説得をして帰った。同尾島も途中から脱会強要に加わった。
(8) 警察による解放の経緯
原告妻は,翌31日午前2時ころ目覚め,被告妻の母の鞄から携帯電話を取り出し,救出要請のメールを知人に送ろうとした。同携帯電話にはロックがかかっていたが,偶然,ロックを解除することができ,上記EN(統一教会信者)に2通目の救出メールを送った。
上記メール送信後に携帯電話の送受信記録を確認すると,被告妻の母が頻繁に同元信者の姉と連絡を取っていたことが確認された。
原告妻は,このままでは監禁から解放されないと考え,いっそ警察に110番通報して救出を求めようと決意し,110番通報して救出方を要請した。
約10分ほどで警察官が501号室前に来て呼鈴を鳴らし,被告元信者の姉が玄関ドアを開けると,原告らは救出を求めて叫んだが,他の被告らによって取り押さえられた。やがて警察官が部屋の中に入ってきて,訴外亡高澤,同原告夫の兄及び原告夫が警察署へ同行を求められ,事情聴取が行われた。原告妻に対しては,警察車両の中で事情聴取が行われた。警察の事情聴取が終わると,訴外亡高澤は,他の被告らを集め,全員から原告両名に謝罪させ,「訴えないで欲しい」と懇願した。
原告らは上記経緯により監禁から解放された。
(9) 監禁後の被害
監禁から解放後,間もなく,原告妻が病院で受診したところ,拉致監禁された際に受けた両足及び右腕の傷について「右上肢擦過打撲傷,右下肢打撲傷,左下肢打撲傷により全治2週間」と診断された。同原告は,監禁から解放されてからも,監禁されている夢を何度も見た。電話のベルやドアベルが鳴ると緊張して動悸が早くなり,電話や来客が怖いと思うようになり,電話や来客が終わってからも暫く緊張が解けない。縛られて連行されたときに出来た腕の傷は,痣のようになって二か月半経過した今も残り,痣を見るたびその時の事を思い出すものである。本件各犯行は,原告らの長女YN【8歳】の心にも消えない傷を残した。原告らが大阪から帰ってから暫くの間,原告らが傍で一緒に寝ていても,「一人で寂しい」とYNの夜泣きが続き,従前は玄関ドアの鍵以外にチェーンロックをかけることがなかったが,YNは寝る前に自分で玄関ドアにチェーンロックをかけるようになった。原告らが「どうしてチェーンロックをかけるのか」とYNに問うと,「怖いから」と答えた。
このように,原告ら家族は,今も心身共に拉致監禁の後遺症に苛まされ続けているものである。
4.刑事告訴と不起訴処分
原告らに対する拉致監禁,脱会強要が,訴外亡高澤,被告尾島及び同元信者の姉らの主導で行われたことは明らかであったことから,原告らは,他の親族の被告らが示談に応じるなら,親族を告訴対象から外して訴外亡高澤,同尾島及び同元信者の姉らのみを刑事告訴しようと考え,親族等被告と示談交渉を行った。
原告らが示談で要求した主な内容は,本件拉致監禁に関する事実関係を認め,事実や証拠を隠すことなく提供すること,今後2度と同種犯行を繰り返さないと約束することだった。被告親族らがこれらを遵守するならば,刑事告訴や民事訴訟は一切行わず,また,金銭的請求も行わないという内容で,殆ど示談とは言い難いほどに,加害者側に有利な内容であった。
ところが,平成26年8月30日,被告親族らの返事は示談には応じられないとのことであり,示談交渉の過程で電話で話す中で,被告親族らは事実を殊更に否定したり,ひた隠しにしようとするなど,何らの反省がないことが明白となった。このような状況では,いつまた同じことをされるか分からないという恐怖が継続することから,原告らとしては,何よりも自分達家族を守ることを最優先に考え,平成26年12月4日,訴外亡高澤及び被告らを刑事告訴した。平成27年12月22日,訴外亡高澤は被疑者死亡により,被告らは起訴猶予によりいずれも不起訴処分となった。
5.原告らの損害発生
被告らの上記拉致監禁棄教強要行為は故意に原告らの人権を侵害する共同不法行為を構成することは明かであり,これにより原告らはそれぞれ下記のとおりの損害を被った。
(1) 原告夫の被った損害
ア.休業損害 金8万1600円
イ.慰謝料
拉致監禁されたこと及びその間夫婦及び子供と別離の生活を強いられたことによる精神的損害は,少なく見積もって金300万円を下らない。
ウ.弁護士費用
金40万円
エ.損害総額
金348万1600円
(2) 原告妻の被った損害
ア.治療費 金2180円
イ.慰謝料
拉致監禁されたこと及びその間夫婦及び子供と別離の生活を強いられたことによる精神的損害は,少なく見積もって金300万円を下らない。
ウ.弁護士費用
金40万円
エ.損害総額
金340万2180円
6.原告らの人格権に基づく差止請求
(1) 何人も,自己の生命・身体の安全及び生活の平穏を求め,信教の自由をはじめとする精神的自由を享有する権利である「人格権」を有し,その侵害に対しては,人格権に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権を行使することができる(参考判例:札幌地判平成11年2月22日・判時1676号3頁)。
(2) 被告らの前記一連による拉致・監禁・改宗強要行為は,明らかに原告らの人格権を侵害するものであるところ,被告らは,本件による原告らの棄教強制に失敗していることから,原告らに対して今後とも同様の行為に及ぶ危険性は高い。
(3) したがって,原告らは,人格権に基づく妨害予防請求権として,被告らに対し,暴行,脅迫,拉致,監禁,面談強要等により,原告らが信仰する宗教の棄教を強要することの予防的排除を求める権利を有する。
7.よって,原告らは,被告らに対し,それぞれ請求の趣旨記載の裁判を求め,本訴に及んだ次第である(請求の趣旨第1項及び同第2項記載の遅延損害金の起算点は本件不法行為開始時,遅延損害利息は民事法定利息)。
証 拠 方 法
おって,口頭弁論期日において提出する。
添 付 書 類
訴状副本 7通
訴訟委任状 2通
以上