広島夫婦拉致監禁事件 民事訴訟 地裁判決文を公開!(前半)
先回の記事で広島夫婦拉致監禁事件、地裁判決の結果をお伝えしました。
今回と次回の2回に分けて、判決文の抜粋を掲載いたします。
【判決文の表記についての解説】
1.人物名の表記について
プライバシー保護のため個人名等は伏せて記載します(一部人物は実名表記)。
なお、個人名を伏せて表記した部分は太字にしてあります。
①原告についての表記
原告夫妻の名前は「夫」「妻」と表記しました。
②被告についての表記
原告夫妻の両親は「夫の父」「夫の母」「妻の父」「妻の母」と表記しました。また、原告夫妻の親族でない元信者の姉は「元信者の姉」、その夫は「元信姉の夫」と表記しました。
③訴外人物(本裁判において原告でも被告でもない人物のこと)についての表記
訴外人物の表記は、「夫の叔父A」「妻の叔母B」など、原告との関係で表記してあります。
2.読みやすくするため、文章の段落部分を1行空けてあります。
3.重要と思われる部分は赤文字にしてあります。 特に重要な部分には下線を引きました。
4.補足説明の表記
本文中の補足説明は【当時3歳】など、【 】で括りました。
5.判決文では「世界平和統一家庭連合」の旧称「世界基督教統一神霊協会」の短縮形として「統一協会」と記しています。
【主な登場人物】
判決文の理解を助けるため、本訴訟の主な登場人物を紹介します(判決に基づく)。
●原告2人
原告夫、原告妻:家庭連合信者。当時、年齢は共に40代、子供2人(長女8歳、長男3歳)。
●被告6人(原告夫の父は、本民事訴訟中に死去、訴外となる)
尾島淳義 :青谷福音ルーテル教会の執事。キリスト教神戸真教会の亡高澤守牧師と共に監禁下の脱会強要を主導。なお、亡高澤牧師は本件刑事告訴の被疑者として捜査中に自殺した。
原告夫の母、原告妻の父、原告妻の母
:亡高澤と尾島の指導の下で拉致監禁脱会強要を実行した。
:元信者の姉は、家庭連合信者であった実妹を亡高澤守牧師と共謀して脱会させた人物。判決によると本件事件では元信者の姉と共にその夫である元信者姉の夫が原告らに対する拉致監禁の一端を担った。
【判決文の構成】
判決文全体の構成を俯瞰できるように以下に見出しだけを記しました。
なお、判決文を全て掲載するとかなりの分量になるため、重要部分を抜粋して2回に分けて掲載します。今回は赤字で記した部分を抜粋して掲載し、次回は青地で記した部分を掲載します。
主文
事実及び理由
第1 請求
第2 事案の概要
1.争いのない事実
(1)当事者等
(2)平26年7月26日から同月31日までの状況等
2.争点及び争点についての当事者の主張
(1)被告らの行為に不法行為が成立するか否か(争点1)
(原告らの主張)
(被告らの主張)
(2)被告らの行為に不法行為が成立する場合に、正当行為として違法性が阻却される
か否か(争点2)
(被告らの主張)
(原告らの主張)
(3)原告らの生じた損害の有無及び額(争点3)
(原告らの主張)
(4)原告らの差止請求の可否(争点4)
(原告らの主張)
(被告らの主張)
第3 当裁判所の判断
1.前提事実他、証拠、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)原告夫が統一協会へ入会するに至った経緯等
(2)原告妻が統一協会へ入会するに至った経緯等
(3)原告らによる金銭の無心
(4)統一協会への入会の発覚等
(5)家族会(神戸集会)への参加と脱会説得の謀議等
(6)原告夫を501号室に連行するに至った経緯
(7)原告妻を501号室に連行するに至る経緯
(8)原告らの監禁状況等
(9)亡高澤及び被告尾島の脱会説得行為等
(10)監禁からの解放等
2.事実認定の補足説明
(1)事前謀議について
(2)被告元信者の姉の役割について
3.争点1(被告らの行為に不法行為が成立するか否か)について
(1)被告両親らの原告らに対する不法行為の成否
(2)被告尾島の原告らに対する不法行為の成否
(3)被告元信者姉の夫の原告らに対する不法行為の成否
(4)被告元信者の姉の原告らに対する不法行為の成否
(5)小括
ア 原告夫について
イ 原告妻について
4.争点2(被告らの行為に不正行為が成立する場合に、正当行為として違法性が阻却さ
れるか否か)について
5.争点3(原告らに生じた損害の有無及び額)について
(1)原告夫に生じた損害
(2)原告妻に生じた損害
6.争点4(原告らの差止請求の可否)について
第4 結論
それでは、以下に判決文を掲載します。
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令和2年2月1 8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成2 8年(ワ)第554号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 令和元年1 0月8日
判 決
住所A
原 告 夫
同所
原 告 妻
上記両名訴訟代理人弁護士 福 本 修 也
住所B
被 告 尾 島 淳 義
同訴訟代理人弁護士 吉 井 正 明
勝 俣 彰 仁
増 田 祐 一
郷 路 征 記
住所C
被 告 元信者姉の夫
同所
被 告 元信者の姉
住所D
被 告 夫の母
住所E
被 告 妻の父
同所
被 告 妻の母
上記5名訴訟代理人弁護士 我 妻 正 規
清 水 正 之
浅 利 陽 子
主 文
1. 被告らは、原告夫に対し、連帯して116万1200円及びこれに対する平成2 6年7月3 1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2. 被告尾島淳義、被告元信者の姉、被告夫の母、被告妻の父及び被告妻の母は、原告妻に対し、連帯して165万2180円及びこれに対する平成26年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3. 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4. 訴訟費用は、原告夫に生じた費用の5分の4と被告らに生じた費用の各5分の2を原告夫の負担とし、原告妻に生じた費用の3分の2と被告ら(被告元信者姉の夫を除く)に生じた費用の各3分の1と被告元信者姉の夫に生じた費用の2分の1を原告妻の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告ら(被告元信者姉の夫を除く)に生じたその余の費用を被告ら(被告元信者姉の夫を除く)の負担とし、被告元信者姉の夫に生じたその余の費用を被告元信者姉の夫の負担とする。
5. この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1. 被告らは、原告夫に対し、連帯して348万1600円及びこれに対する平成26年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2. 被告らは、原告妻に対し、連帯して340万2180円及びこれに対する平成26年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3. 被告らは、原告らに対し、暴行、脅迫、拉致、監禁、面談強要、電話による会話強要等を行い、又はこれらの方法を用いて、原告らが信仰する宗教を棄教することを強要してはならない。
第3 当裁判所の判断
1. 前提事実のほか、証拠(甲1 ~ 3 、5 ~ 1 5 、1 7 ~ 2 2 、2 7 ~ 3 1、乙1 ~ 5 、 11の1 、12 、13 、14の1 、15 、16の1 、丙24 、原告夫本人、原告妻本人、被告尾島本人、被告元信者姉の夫本人、被告元信者の姉本人、被告夫の母本人、被告妻の父本人、被告妻の母本人、証人元信者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(5)家族会(神戸集会)への参加と脱会説得の謀議等
ア 平成2 5年4月頃、被告両親らは、統一協会の元信者を介して、かつて妹である元信者Kを統一協会から脱会させた経験を有する被告元信者の姉と知り合った。被告元信者の姉は、被告両親らに対して、元信者Kを統一協会から脱会させた体験談を話すと共に、元信者Kの脱会に関与した亡高澤、被告尾島を紹介した。被告両親らは、同月以降、被告尾島が主宰する家族会(神戸集会)に参加し、被告両親らと同様に統一協会の信者を家族に持つ者らの話を聞いたり、逆に自らの状況を報告したりするなどした。
被告尾島は、当時既に1 0 0人以上の統一協会の信者について脱会を試みた経験を有しており、その中には、原告らと同様の方法で信者を連れ出し、マンションの一室に監禁する事例も相当数あり、神戸集会においては、そのような方法で連れ出された元信者や実際に連れ出し等を行ったその親族から、信者の身体を拘束する方法や、信者を監禁したマンションの部屋の扉や窓の施錠方法等が体験談として語られていた。被告両親らは、同年10月まで数回にわたって神戸集会に参加したが、神戸集会には、亡高澤及び被告尾島が毎回参加していた。被告両親らは、同年10月に参加した神戸集会において、原告らを統一協会から脱会させることを決意し、その後、原告らを脱会させることについて親族らに協力者を募りつつ、その方法や役割分担等の検討を始めた。
イ 被告妻の両親は、平成2 6年5月13日、亡高澤に対し1 5 0万円を、被告夫の両親は、同月1 5日、亡高澤に対し1 5 0万円をそれぞれ振り込み送金した。
ウ 亡夫の父と被告妻の父は、平成2 6年6月、大阪を訪れ、亡高澤に本件マンションまで案内してもらい、5 0 1号室の状況を確認したが、遅くともその時までに、5 0 1号室の玄関ドアの防犯チェーンが鍵式の南京錠で固定され、更に防犯チェーンの根元部分に取り付けられた別のチェーンとドアノブが番号式の錠によって固定された状態に、べランダに面した2部屋の和室のサッシ窓のクレセント錠部分が解錠できないように金具で固定された状態になっていた。
また、同月中に、亡高澤、被告元信者の姉、元信者、被告両親らほか本件に関与した親族らが広島市内の区民文化センターに集い、原告らに対する脱会説得行為に関して、各人の具体的な役割分担についての謀議を行った。
エ 同年7月1 4日及び1 5日、被告両親らと被告元信者の姉が下見のために本件マンションを訪れ、 5 0 1号室の清掃や日用品の買い出し等を行うと共に、被告元信者の姉は亡高澤と電話で頻繁にやり取りをして、事前準備の状況等について報告を行った。
同月2 5日から被告元信者の姉は5 0 1号室に宿泊し、翌2 6日には原告らの説得が長期にわたることを見越して大量の食料品を買い込んだ。また、同月2 5日までに、原告夫を乗せたワゴン車の席を埋めるために被告元信者姉の夫が同車に同乗することが決まった。
(6)原告夫を501号室に連行するに至る経緯
ア 被告夫の母は、平成26年7月16日、原告夫に対し、原告夫の叔父が広島市内の病院に入院しており、同月26日に親族で見舞いに行くので一緒に来てほしい旨の嘘を言い、同日午後3時頃、亡夫の父、被告夫の母、原告夫の兄の夫の兄、叔父夫婦の夫の叔父Aと夫の叔母A、叔父の夫の叔父B、従兄弟の夫の従兄弟がワゴン車に乗って原告夫方に迎えに来た。原告夫は言われるままにワゴン車に乗り込み、最後列の中央席に座った。原告夫の右側には亡夫の父が、左側には夫の兄が座ってその両脇を固めると、夫の叔母A及び夫の従兄弟がワゴン車から降り、代わりに、運転席に親族でない男が、助手席に被告元信者姉の夫がそれぞれ乗り込んだ。
イ ワゴン車が発進した後、原告夫は夫の兄に携帯電話を見せてほしいと言われたため、同人に携帯電話を渡すと、携帯電話をそのまま取り上げられた。
原告夫は、統一協会の信者が拉致監禁され脱会強要を受けるという事件があることを聞いていたことから、被告夫の両親らの意図を察して、トイレに行かせてほしいと言ったところ、簡易トイレを差し出されたため、病院に見舞いに向かうという話が嘘であることを確信し、もがいて暴れたり、後ろの車に手を振って助けを求めるなどしたが、亡夫の父及び夫の兄に腕をつかまれ、「こういうことはしたくないけど、これ以上暴れるなら手も足も縛らないといけない。」と言われたため、原告夫は抵抗を緩めた。その後、原告夫は夫の兄から財布も取り上げられた。
ウ ワゴン車は本件マンションに向かって大阪方面に進行していたが、平成26年7月26日午後7時2 0分、加古川インターを過ぎた辺りで、被告元信者の姉から被告元信者姉の夫に対して、原告夫に目隠しをするように指示があったため、 被告元信者姉の夫は亡夫の父と夫の兄に対して「目隠しを。」と言った。亡夫の父と夫の兄は、原告夫の頭に黒い布袋を被せ、両手を布製の紐で縛った。
エ 平成2 6年7月2 6日午後8時頃、ワゴン車は本件マンションの前に到着し、原告夫は被告夫の両親らに誘導されるままに5 0 1号室に連行された。その際も、原告夫には目隠しがされ、両手が縛られた状態であり、原告夫は暴れたり叫んだりすることなく、 5 0 1号室に入室した。
(7)原告妻を5 0 1号室に連行するに至る経緯
ア 被告妻の母は、平成2 6年7月初旬、原告妻に対し、同月2 6日及び2 7日に子らを連れて実家に帰省するように勧めたため、原告妻は、同月26日午後に長女【当時8歳】と長男【当時3歳】を連れて広島市内の被告妻の父方に帰省した。原告妻が帰省すると、そこには被告原告妻両親のほか、妹の妻の妹とその娘、叔父夫婦の妻の叔父Bと妻の叔母Bがいた。夕食後、原告妻の長男が客間で寝始めたが、被告妻の父らは、長男を布団ごと居間に移動させた。同日午後8時頃、被告妻の母と妻の妹が原告妻の長女と妻の妹の娘を連れてショッピングセンターに出かけたが、妻の妹はショッピングセンターに到着後すぐに被告妻の父方に引き返し、原告妻を拉致する現場に合流した。
イ 原告妻は長男のそばで長女の問題集を作成していたところ、被告妻の父から客間に来て一緒に話すように言われたため、原告妻はこれに従って客間に行くと、義弟の妻の義弟が来ていた。平成26年7月26日午後9時頃、原告妻が話の輪に加わっていると、原告妻は突然背後から妻の義弟に組み伏せられ、同時に義弟の親である妻の親族男と妻の親族女が客間に入ってきた。
被告妻の父は原告妻の口をタオルで塞ぎ、他の者らで原告妻を縛り上げるためにその手足を押さえ付けたが、原告妻は叫びながら必死で抵抗したため、しばらくの間もみ合いが続いた。その最中、途中で帰宅していた妻の妹がCDプレイヤーで音楽を流し、原告妻の声が外に響かないようにした。もみ合いの中で、原告妻はズボンのポケットから携帯電話を、ハンドバッグから自宅の鍵と健康保険証を奪われ、最終的に、原告妻は両足首を8の字型の紐で、両膝と両手首をさらしで縛られ、その状態で寝袋に頭まで入れられ、更にその上からさらしで縛られた。
原告妻は、そのまま被告妻の父方の前に停めてあったワゴン車に担ぎ込まれ、3列目の座席の前の床に座らされ、その右側には妻の叔母Bが、左側には被告妻の父が座ってその両脇を固めた。ワゴン車にはほかに妻の叔父Bと妻の義弟が乗り、運転席に親族でない男が乗り込んで、ウゴン車は出発した。
ウ 出発後、原告妻は頭を寝袋から出され、両膝をしばっていたさらしを解かれたが、ワゴン車が高速道路を降りる直前には、タオルで目隠しをされた。ワゴン車が高速道路を降りる頃、被告妻の父は被告元信者の姉に対して携帯電話でメールを少なくとも1回送信し、到着時刻の見込みについて報告した。原告妻は、ワゴン車が本件マンションに到着するまでの間に、隠れて両手首と両足首の拘束を解き、脱出の機会をうかがっていた。
エ 平成26年7月27日午前0時過ぎ頃、ワゴン車が本件マンションの前に停車し、ドアが開いた瞬間、原告妻は外に逃げ出そうとしたが、被告妻の父らによって車内に引き戻されて、ワゴン車は再び発車した。原告妻は、ワゴン車の窓を開けて、車外に向かって叫んで助けを求めたが、被告妻の父らに口をタオルで覆われ、両手首をさらしで縛られた。被告妻の父らは、被告元信者の姉の指示で原告妻を再び寝袋に入れ、頭に黒い布袋を被せてから、同日午前1時3 0分頃にワゴン車を本件マンションの前に停車させ、原告妻を担いで5 01号室に向かった。5階のエレベータを降りた瞬間、原告妻は助けを求めて叫んだだめ、被告妻の父がその口を塞いでそのまま原告妻を5 0 1号室に運び込んだ。
オ 原告妻は、上記の一連の連行行為によって、全治2週間程度を要する右上肢擦過打撲傷、右下肢打撲傷、左下肢打撲傷の傷害を負った。
(8)原告らの監禁状況等
5 0 1号室はダイニングキッチン以外に南側のべランダに面した和室が2部屋あり、そこに設けられたサッシ窓のクレセント錠部分が解錠できないように金具で固定されていた上、南西角の和室のサッシ窓の前に襖が設けられ、その前には布団が山積みにされ、南東角の和室のサッシ窓の前にも襖が設けられて、その前には座卓やテレビが置かれており、容易にべランダに出ることができない状態となっていた。また、玄関とダイニングキッチンとの間にはアコーディオンカーテンが設置され、その前には炬燵机が配置されていた上、玄関ドアの防犯チェーンが鍵式の南京錠で固定され、更に防犯チェーンの根元部分に取り付けられた別のチェーンとドアノブが番号式の錠によって固定された状態になっていた。
平成2 6年7月2 7日から同月3 1日までの間、原告らは和室で起居していたが、原告らを5 0 1号室に連行して来た者らのうち、被告元信者姉の夫は一旦501号室に入室した直後に退去したが、その他の者らの多くはダイニングキッチンなどで起居し、原告らが脱出するのを防止していた。上記期間中、玄関ドアの南京錠の鍵は基本的に被告元信者の姉が管理しており、被告両親らや親族らは、何か分からないことがあると被告元信者の姉に相談し、被告元信者の姉自身でも分からないことは亡高澤に電話をして相談する体制となっていた。上記期間中、原告らはハンガーストライキとして、水や飴玉以外の食事を摂取しなかった。
(9)亡高澤及び被告尾島の脱会説得行為等
ア 平成2 6年7月2 7日の未明、原告妻が501号室に入室する際の騒ぎが近隣住民によって通報されたため、警察官が501号室を訪れたが、これには被告元信者の姉が対応し、酔っ払いが騒いだ旨の説明をして警察官は引き揚げていった。同日午後4時頃、亡高澤と被告尾島が5 0 1号室を訪れ、原告らに対して自己紹介をした。原告妻は、亡高澤に対し、「これは拉致監禁で犯罪です。こんなことをして良いと思っているのですか。」と抗議すると、亡高澤は「これは話合いです。あなたたちが今まで両親がいくら言っても聞かなかったから、こうするしかなかったんだ。」などと答え、なおも原告妻が抗議すると、被告両親らが「これは監禁じゃなくて話合いだ。親族だから罪にはならない。」などと言った。
亡高澤は、高圧的な態度で統一協会の教義を批判し、「あんたが出会ったと信じている神様は悪魔だよ。本当の神様じゃない。あんたが神体験だと思っているものはサタンと出会ったんだ。」などと話しかけており、被告尾島はその横で相づちを打っていた。原告妻が布団に横になると、亡高澤は「人の話を聞く態度がなっていない。それが人として正しい姿なのか。今のお前の姿は子供たちに堂々と見せられないものだ。」などと言って話を聞くことを強要した。
同日午後7時頃、亡高澤、亡夫の父及び被告妻の父は、原告妻を連行した際の騒ぎについて警察に事情説明に出たため、被告尾島は、亡高澤に代わって脱会説得行為を行った。もっとも、被告尾島の脱会説得行為は、亡高澤と比較して終始平穏な態様で行われた。
同日午後8時頃、亡高澤らが5 0 1号室に戻り、亡高澤と被告尾島はそのまま同室を後にした。
イ 平成2 6年7月28日午前11時30分頃、原告妻は、妻の親族男が和室に置いていた携帯電話を密かに取ってトイレに入り、知り合いの統一協会の信者に救出を求めるメールを送信した。妻の親族男が携帯電話がないことに気付き、騒ぎになったため、原告妻は部屋に戻り、妻の親族男の携帯電話を布団の下に隠した。親族らのうちの一人が携帯電話を見つけ、被告元信者の姉に渡すと、被告元信者の姉は原告妻が上記メールを送信していたことに気付き、親族らに「携帯はロックするようにと言いましたよね。」と叱責すると共に、亡高澤に電話で状況を報告した。
同日午後2時頃、亡高澤が5 0 1号室を訪れ、上記メールについて「引っ越しをしないといけないかと思ったけど、『501』と『加古川』としかなくてマンション名がないので、大丈夫。」、「また150万円更に掛かるところでしたよ。」、「いつまでこの状況を続けられるか分からなくなってきたからペースを速めていきます。」などと言った。原告らがハンガーストライキをしていたことから、被告夫の母が亡高澤に対し、食事を摂らせなくてよいかどうか尋ねたが、亡高澤は「2 、3日食べなくても死にはしませんよ。食べさせなくていいです。」と答え、原告らに対する脱会説得行為を開始した。
同日午後5時3 0分頃、被告尾島も501号室を訪れ、原告らの脱会説得行為に加わった。被告尾島は、桜田淳子のインタビュー記事を配布し、全て音読した上、原告らに意見を求めるなどした。同日の脱会説得行為は午後9時頃まで続いた。
ウ 平成2 6年7月2 9日午後2時頃、亡高澤が5 0 1号室を訪れ、原告らに対する脱会説得行為を開始した。原告妻は、亡高澤の話に辟易し、途中約1時間トイレに立て籠ったが、被告元信者の姉は1 0円玉でトイレの鍵を開け、原告妻を部屋に戻した。亡高澤は、このことに関して「ガキみたいなことしやがって。」などと罵倒した。
同日午後8時3 0分頃、被告尾島も501号室を訪れ、脱会説得行為に加わった。途中で亡高澤は退室し、被告尾島も同日午後9時3 0分頃に5 0 1号室を後にした。
エ 被告妻の母は、上記期間中、被告妻の父方で原告らの子らの面倒を見ていたが、 その世話を妻の妹に任せて、平成2 6年7月3 0日午後0時過ぎ頃、501室に合流した。亡高澤は、同日午後1時過ぎ頃に501号室を訪れ、原告らに対する脱会説得行為を始め、同日午後4時3 0分頃に同室を去った。被告尾島は、同日午後5時3 0分頃に5 0 1号室を訪れ、統一協会の教祖である文鮮明の三男のブログ記事を配布し、全て音読した上、原告らに意見を求めるなどした。被告尾島は同日午後8時30分頃に5 0 1号室を後にした。
オ 原告らは、上記期間中、亡高澤及び被告尾島に対し、脱会説得行為を中止して501号室から退去することなどを求めたが、亡高澤及び被告尾島がこれに応じることはなかった。
(10)監禁からの解放等
ア 平成2 6年7月3 1日午前2時頃、原告妻は目を覚まし、皆が寝静まっている中で被告妻の母のバッグから同人の携帯電話を密かに取り出し、トイレで知り合いの統ー協会の信者に救出を求めるメールを送信すると共に、警察に110番通報をした。
その後、警察官が5 0 1号室を訪ね、被告元信者の姉が玄関ドアを開けると、原告らは救出を求めて叫んだが、親族らによって取り押さえられた。やがて警察官が501号室に入室し、各人に事情聴取を求めて、原告らは解放された。
イ 原告らは、被告両親らを含む親族らとの間で示談交渉を開始したが、折り合いがつかなかったため、平成26年12月4日、亡高澤、被告尾島、被告元信者姉の夫、被告元信者の姉、被告両親らを含む親族らを刑事告訴した。平成2 7年12月22日、亡高澤は被疑者死亡により、その他の者らは起訴猶予によりいずれも不起訴処分となった。
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以下は、次回後半にて掲載します。