
⭕なぜディプログラミングが犯罪として扱われなかったのか?(宗教学者 大田俊寛氏)
この記事の内容は世界日報社による宗教学者・大田俊寛氏(埼玉大学非常勤講師)へのインタビュー内容を抜粋したものです。
気鋭の宗教学者 大田俊寛氏へのインタビュー
卓越した視点からオウム事件を深く考察してきた大田俊寛氏
地下鉄サリン事件から本日で30年です。発売中の4月号に、大田俊寛さんが「オウム真理教を支配した「精神呪縛」の構造」を寄稿しています。オウム信者であったさまざまな人との対話から導き出した支配の構造について解説し、「カルト」にまつわる幻想から脱却するための手がかりを論じます。 pic.twitter.com/mzGlMszOYI
— 月刊『中央公論』 (@chukoedi) March 19, 2025
拉致 ・監禁・拷問による強制的棄教行為、いわゆる「ディプログラミング」が日本社会で横行してきた
――東京地裁が解散命令を決定したことで、家庭連合に反対する人々の暴力的行為に正当性を与えることにならないか。
地裁決定で解散命令が出されたこと、統一教会の教義に懸念点が見られることは、反統一教会の立場が正しかったことを必ずしも意味しない。統一教会員に対しては、拉致 ・監禁・拷問によって強制的に棄教させる行為、いわゆる「ディプログラミング」が横行してきたという大きな問題点がある。これについては、米本和広『我らの不快な隣人―統一教会から「救出」されたある女性信者の悲劇』や、室生忠『大学の宗教迫害』『日本宗教の闇―強制棄教との戦いの軌跡』といった著作に詳しく述べられている。また、国際NGO「国境なき人権」が調査に入り、2012年に「棄教を目的とした拉致と拘束」という報告書を作成している。
日本において、統一教会員に対する最初のディプログラミングを行ったのは、日本イエス・キリスト教団牧師の森山諭氏であったと言われている。森山氏は、統一教会を異端と見なして激しく論駁(ろんばく)し、1966年以降は家族の手を借りながら信者を教会内に監禁し、強制的に棄教させるようになった。67年には朝日新聞に「親泣かせの『原理運動』」という記事が掲載されたことから、親たちの不安が高まり、森山氏を始めとする牧師たちへの相談が増加した。こうして、ディプログラミングを手掛けるキリスト教牧師のネットワークが形成され始めた。
70年代になると、国際勝共連合と左翼勢力の対立が高まり、左翼系の政治家や知識人が反統一教会の陣営に加わった。さらに80年代になると、霊感商法が大きな問題となり、弁護士やメディア関係者が反統一教会のキャンペーンを張るようになった。そして90年代には、オウム真理教事件を受け、「カルトが行う洗脳やマインド・コントロールの恐怖」が声高に叫ばれた。それを受けて、マインド・コントロールの理論化が進められ、心理学者や宗教学者が「脱カルト」の活動を開始した。
60年代から90年代に掛けて、反統一教会の運動は、問題点を変えながらさまざまな分野の人々を吸収していった。そしてその背後では、「カルト対策の奥の手」として、度重なるディプログラミングが遂行された。私はこうして作られた人脈を「ディプログラミング・ネットワーク」と称している。
なぜディプログラミングを犯罪として扱わないのか?
――地裁は、拉致監禁されて棄教した元信者が起こした裁判を証拠として採用した。
文科省が提出した陳述書には、ディプログラミングの後に献金裁判を強いられた人々によるものが多数存在すると聞いている。イギリスにおける統一教会関連の裁判では、陳述者の中にディプログラミングを受けた人々が含まれていたため、裁判所はそれらの証言を疑問視し、逆に政府の違法性を認める判決を下している。ディプログラミングの問題を直視しているかどうかという点で、日本の裁判所の対応とは大きな違いがある。
私が不思議に思ったのは、なぜ警察や裁判所といった公権力は、ディプログラミングを犯罪として扱わないのか、ということだ。 欧米ではディプログラミングが犯罪として処罰されることにより、その動きが沈静化していったが、奇妙なことに日本ではそうならなかった。
「民間移送業」を警察OBが運営
――なぜ日本でディプログラミングが沈静化しなかったのか。
現在のところ、その大きな背景として、「日本における精神医療の特殊性」という問題が存在したのではないか、と考えている。
日本では古来、精神障害者を「座敷牢(ろう)」に監禁するという風習が見られた。戦後になると、さすがにそれらは姿を消したが、その代わりとして多くの精神病院が建設され、国は精神障害者の「隔離収容政策」を進めた。日本では、本人が入院を拒んでも、精神科医と家族の判断によって強制的に入院させることができる「医療保護入院」という制度が存在し、この方式の乱用によって、入院患者数が巨大なものに膨れ上がった。
風間直樹他『ルポ・収容所列島―ニッポンの精神医療を問う』という書籍によれば、2017年時の日本の精神病院への入院患者数は約28万人、精神病床数は約34万床に達し、一国だけで世界の5分の1を占めるという。
患者を精神病院に強制入院させるため、「民間移送業者」と呼ばれるビジネスが発達し、それらの多くは警察OBによって運営されてきた。また精神病院のほかにも、各種の精神更生施設、無料低額宿泊所、「引き出し屋」が運営する合宿所などが、監禁場所としての機能を果たしたという。
統一教会員に対するディプログラミングについて調べる中で私が痛感したのは、日本社会には実は、秩序紊乱(びんらん)者を「拉致監禁」によって解決しようとする「裏技」が存在し、公権力もまたその動きを支持してきたのではないか、ということだ。私たちはこれから、宗教的ディプログラミングの問題を改めて検証するだけではなく、それを成立させてきた日本社会全体の問題に対しても広く目を向け、改善の道を模索していく必要がある。
ある意味では「統一教会問題」とは、一教団や宗教のみならず、政治・司法・警察・学問・メディアといった、戦後日本における多分野の矛盾が集約された領域と言い得るかもしれない。遺憾ながらその「解決」には、今後かなりの時間を要することだろう。
参考記事 地下鉄サリン事件は信者への拉致監禁強制棄教におけるトラウマが引き起こした(中川晴久牧師)
統一教会解散命令を契機に考えるディプログラミング組織の闇−中川晴久− https://t.co/wPofez1Dg9
オピニオンサイトSALTYに寄稿しました。
キリスト教側からの発信です。— 中川【地下鉄サリン事件は信者への拉致監禁強制棄教におけるトラウマが引き起こした】 (@cop778912) April 14, 2025